条例予算特別委員会2022
総会質疑

交通政策が変われば、都市構造が変わる!

将来的な「都心循環型LRT」の導入を提案!

~公共交通を主軸とした総合交通体系の構築に伴う都市構造の再編について~


今回の総会質疑では主に「福岡市の交通政策」について取り上げました。これは、今年の2月から3月にかけて、当事務所の議員インターンシップに参加している大学生が、政策立案コンテストに参加したことがきっかけです。

「30年後の理想の未来を描き、その実現に必要な取組みを示す」
という趣旨のコンテストだったのですが、今回、彼らが取り上げたテーマが「福岡市の交通政策」であり、発表のタイトルも『ウォーカブルシティ福岡~道路を「車」から「人」へ開放せよ!~』という壮大な内容でした。「ウォーカブルシティ」とは、「歩きやすい」、「歩きたくなる」、「歩くのが楽しい」、つまり、車中心ではなく人中心のまちということです。

彼らの中では、30年後の福岡市は、全自動運転やAIなど最新技術を活用した公共交通機関の導入による「交通革命」により自動車交通量は劇的に減っており、さらに道路を車から人へと開放することで、すべての人に安心・安全で快適な移動を提供できるまちになっています。
今回の質疑では、そのような将来ビジョンの実現に向けての一歩となるよう、令和4年度予算案に対する現実的な質疑を通して、本市の今後の取組みについて様々な視点から提案を行ないました。

(1)全市的に自動車交通量を減らす取り組みについて

■駐車政策の抜本的見直しを!

福岡市においては、特に都心部の交通混雑が長年の懸案になっています。そこで、はじめに「都心部における駐車政策の現状」について、①パークアンドライド、②フリンジパーキング、③附置義務駐車台数の低減、に関して議論を行ないました。

※パークアンドライド
自宅から最寄りの駅や停留所、目的地の手前まで自動車で行って駐車し、そこから公共交通機関を利用して目的地まで移動する方法。
※フリンジパーキング
都心部へのマイカー乗り入れを減らすため、都心周辺部に車を駐車し、バス等で都心部に行く取組み。
※附置義務駐車場の低減
大規模な建築物を新築する場合に、駐車場スペースをある程度確保することが義務付けられているが、天神・博多エリアの一定の地区内においては、公共交通の利用を促進する取り組みを条件に、その駐車台数を減らすことができる。

福岡市においては、都心部(天神・博多エリア)への自動車の乗り入れを抑制するために様々な施策を行なっているところですが、実はパークアンドライドもフリンジパーキングも「整備目標」が設定されていません。このような「積み上げ方式」での取り組みでは、都心部への自動車流入量を減らす効果がほとんど無いことを指摘、施策の改善を訴えました。

また、天神・博多エリアにおいては、民間事業者が新たにビルを建築する際に、「公共交通の利用を促進する工夫をすれば、附置義務駐車台数を減らすことができる」という制度があります。しかしながら、今回の質疑では、その制度があまり活用されていない実態も明らかに。もっと民間事業者にとって使いやすい制度に改善すべき点を指摘しました。

■バス路線の再編(幹線・フィーダー化)を促進せよ!

福岡市は、都心部への車の乗り入れを減らすために、「バス路線の再編・効率化」についても交通事業者の協力を得ながら取り組んでいます。例えば、大橋駅(西鉄大牟田線)や藤崎駅(地下鉄空港線)といった鉄道駅までの折り返し運行を増やすことで、都心部に流入するバス交通を効率的に削減しながら、都心部の交通混雑を緩和する効果が生まれています。

※フィーダー交通
生活圏から幹線道路のバス停(もしくは鉄道駅)と接続し、運行される路線バスまたはその路線のこと。

今回の質問では、このバス路線の再編を更に進めるために、六本松駅(地下鉄七隈線)や竹下駅(JR)、箱崎(JR・地下鉄)を折り返し拠点に加えるとともに、その内側を「準都心エリア」と位置づけ、鉄道や自転車での移動を促進する取り組みについて提案しました。
しかし、このような構想を福岡市だけで決めるのはとても難しいことです。福岡市の言い分だけで路線を短くする(=折り返しを増やす)と、バスも利益が出なくなります。一方で、バス事業者にとっても、運転手の高齢化と減少という課題を抱えています。都心部へのバスの流入が課題となっている現状も踏まえると、今後はバス事業者との協議を密にし、利用者の利便性向上と事業者の利益確保を天秤にかけながら、トータルでバス路線の減少を果たすために、現実的な解を追求していく必要があります。

■シェアサイクルの普及を「生活圏」まで拡げる!

自動車交通量を減らす方策の一つとして、シェアサイクルの普及に関しても言及しました。平成30年度に地行が始まったシェアサイクル事業(現在は「チャリチャリ」という名称)は、主に都心部を中心に展開していましたが、現在はアイランドシティや西新、大橋地区など都心部以外のエリアにも順次拡大されています。また、事業開始時と直近の令和3年12月末の状況を比較すると、設置ポートが57箇所から約450箇所、自転車台数が約300台から約2,500台に増加しているところです。

上の写真は、neuet株式会社が運営するシェアサイクル「チャリチャリ」のサービス提供エリアを示したものです。これを見る限り、都心部や広域拠点におけるサービスは充実していますが、さらに郊外部における生活圏(特に東区北部、博多区・中央区・南区・城南区・早良区の南部、西区)へのポート設置が進んでいないことが分かります。生活圏におけるシェアサイクルの普及が進めば、公共交通への乗り継ぎ利用が促進されるとともに、環境にも健康にも良いまちづくりに弾みがつくのではないかと考えます。

そこで、生活圏へのシェアサイクルの普及拡大に向けて、本市もさらなる支援を行う必要がある点について指摘したところ、「郊外部への展開については、採算面での課題もあるが、事業者に働きかけを行うなど今後とも、シェアサイクルの普及を通じて、自転車を活用したまちづくりを推進していく」という積極的な答弁を得ました。

(2)天神~博多~WFをつなぐ新たな交通システムの導入について

■停滞していた「新たな交通システム」の議論

本市は平成30年度に、「ウォーターフロント地区の再整備に伴い今後は来街者の増加が予想されることから、新たな交通システムの導入を検討する必要がある」として、ロープウェイの導入を検討したことがありました。これについては当時の市議会で否決されたことは記憶に新しいことですが、それ以降、新型コロナウイルス感染症の拡大もあり、新たな交通システムを導入する議論は下火になっていました。
そこで今回の質問では、都心部における自動車流入量の削減という視点も踏まえて、「ウォーターフロント地区の交通需要を再検討するとともに、新たな交通システムとしてLRT(Light Rail Transit)の導入を検討すべき」と主張し、議論を展開しました。

■「ロープウェイ」の陰に隠れてしまった「LRT」

LRTとは、「ライト・レール・トランジット」の略称で、わが国では「次世代型路面電車システム」と紹介される乗り物です。国土交通省のホームページを見ると、このLRTについては、「低床式車両の活用や軌道・電停の改良による乗降の容易性、定時性、速達性、快適性などの面で優れた特徴を有する軌道系交通システム」であり、「近年、道路交通を補完し、人と環境にやさしい公共交通として再評価されています」との説明書きもあります。国内では富山市が導入、現在は栃木県宇都宮市でも整備が進んでいます。海外においてはさらに普及しており、近年整備されたLRTにおいては新たな技術も導入され、景観保護の観点から架線(送電線)が無いものが増えてきています。

実は、本市においても平成30年当時、新たに導入する交通システムの一つとしてLRTも候補に挙がっていました。上の表は、当時の福岡市議会第4委員会(現:福祉都市委員会)に示された住宅都市局が作成した「各交通システムの輸送性と経済性を比較する」資料の一部ですが、ここにLRTも掲載されていることが分かります。そして、この時の議論は「道路空間を立体的に活用する(=道路上空を利用する)」ことを前提条件としていたため、鉄軌道の整備が必要となるLRTは検討の序盤から除外されたという経緯があります。

今回の質疑にあたり私は、この当時の議論の土台となったデータを詳細に分析しました。再度上の表をご覧いただきたいのですが、「輸送性」とは「ピーク時に1時間当たりどれだけの人を運べるか」、「経済性」とは「1㎞あたりの整備費」を意味します。この表で言えば、「右下の方に位置されるほど、輸送性も経済性も高い」ということになります。ここには富山市のLRTの事例が示されていますが、現在整備が進んでいる宇都宮市および海外の事例(今回は輸送性と経済性の数字が取れる事例として台湾の高雄、フランスのボルドー、ル・マン、モンペリエ)の5事例を取り上げて比較してみると、実はLRTはロープウェイを上回る輸送性と経済性を有していることが分かりました。つまり、当時は「道路空間を立体的に活用する」点を重視したことにより、LRTの評価が不当に低くなっているというわけです。

■今こそ「都心循環型LRT」の導入を議論すべき!

また、LRTは単なる交通手段としてだけではなく、海外ではまちづくりのコンセプトを実現する手段として導入される事例が増えています。例えば、姉妹都市であるボルドーでは「交通混雑や環境汚染問題の解決」、「街中の車を減らす」、「公共空間の見直し(景観保護のために架線もなくしている)」を、同じくル・マンでは「都心エリアから車を排除」するというコンセプトの下で「単なる交通事業ではなく都市構築プロジェクト」と位置付けています。台湾の高雄では「景観と環境を両立」させるために、世界初の全線架線レス、蓄電装置による電力供給を実現しています。

このような状況を踏まえて、「当面はウォーターフロント地区のアクセス強化という視点から、将来の想定輸送量の検討と併せて、都心部におけるLRT導入の可能性について、改めて検討の俎上に載せる気はないか?」と市長に問うたところ、「車線の減少で既に混雑している道路交通への更なる負荷をかけるなど、(都心部におけるLRT導入には)様々な課題がある」と、現時点では慎重な姿勢を示しました。引き続き、都心へ流入する自動車の量を減らすための施策を提案しながら、人と環境に優しい公共交通として再評価されているLRTの導入実現に向けた検討を重ねていきます。

(3)「新たな交通計画」の策定と「都市構造再編会議(仮称)」の設置について

■「適切な指標」と「意欲的な目標値」の設定が不可欠

平成26年に策定された「福岡市都市交通基本計画」、その翌年に策定された「福岡市総合交通戦略」においては、成果指標の目標値の年限が令和4年度末となっています。まもなく新たな計画が策定されるタイミングですが、その際には「適切な成果指標」と「意欲的な目標値」をそれぞれ設定することが求められています。

たとえば、成果指標で言えば、移動を車から公共交通に切り替えた市民の割合、自動車の保有割合、駐車場政策に関する指標、バス路線のフィーダー化の状況、幹線バスの便数状況、シェアサイクルの普及状況など、従前の成果指標に加えて新たに取り入れるべき指標は多いです。また、目標値については、特に都心部への自動車流入量に関する目標値が低すぎることが明らかになりました。

■交通再編に向けて、全市的な議論を喚起すべき!

今回の質疑を通して、総合的に交通体系を再構築することは、都市の姿を大きく変えることにもつながる、という点を強く感じた次第です。つまり、交通政策は都市構造自体にも大きく影響を及ぼすということです。
そこで、今回の質疑の最後に、今後は市長がイニシアチブを発揮し、民間交通事業者を中心に地場企業、学術経験者など幅広い関係者を集めた「福岡市・都市構造再編会議(仮称)」を設置するとともに、全市的な交通機能の再構築に伴う都市構造の再編を含めた「本市の将来のあるべき姿に関する議論」をスタートさせるべきと主張しました。